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2020年に待ち受ける重要法案
〜改正労働者派遣法、改正年金強化法、賃金等の請求権消滅時効の延長〜

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┃\/┃    ★雇用システム研究所メールマガジン★
┗━━┛                           第213号
                              2020/01/01

           http://www.koyousystem.jp
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令和二年 新しい年が始まりました。
今年も皆様にとり幸多い年でありますようお祈り申し上げます

雇用システム研究所メールマガジン第213号をお送りします。

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□ 目次 INDEX‥‥‥‥‥

◆2020年に待ち受ける重要法案
  〜改正労働者派遣法、改正年金強化法、賃金等の請求権消滅時効の延長〜

■「労使協定方式」が多数の様相、派遣先企業も料金値上げの負担が発生
■企業規模要件が「51人以上」に拡大。士業も厚生年金適用事業所に
■4月施行の改正民法施行で、
 未払い賃金等の請求権の消滅時効が現行の2年から延長に
             (以上執筆者 溝上 憲文)

◆高齢者雇用対策は本格的検討へ

■人生100年時代の高齢者雇用
■事業主の講ずべき措置の内容
■労働政策審議会での議論
■今回の改正の背景
             (以上執筆者 北浦 正行)

編集後記(白石多賀子)

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2020年に待ち受ける重要法案
  〜改正労働者派遣法、改正年金強化法、賃金等の請求権消滅時効の延長〜

 2019年は元号が平成から令和に変わる大きな節目の年だった。また、労働分野
でも時間外労働の罰則付き上限規制(大企業)や年5日の有給休暇の時季指定付
与義務、さらには単純労働の解禁とされる在留資格「特定技能」が設けられ、外
国人労働者の受け入れがスタートするなど大きな転機の年だった。

 2020年は引き続き4月にパートタイム・有期雇用労働法の施行(中小企業は21
年)と同じく均等・均衡原則に基づく改正労働者派遣法、中小企業の「時間外労
働の罰則付き上限規制」が施行される。それと並んで「全世代型社会保障」の実
現を目指す法改正案が通常国会に提出される予定だ。


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■■■ 「労使協定方式」が多数の様相、
              派遣先企業も料金値上げの負担が発生 ■■■
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 改正労働者派遣法では、派遣事業者は派遣先の正社員との均等・均衡待遇を求
める「派遣先均等・均衡方式」か、派遣元の「労使協定方式」のいずれかの仕組
みを選択する必要がある。
派遣先均等・均衡方式の場合は、派遣労働者の均等・均衡待遇を図るために派遣
先は自社の比較対象労働者の昇給・賞与など賃金等の待遇に関する情報を派遣元
に提供する義務がある。

 しかし実際に準備を進めている派遣事業者は大手を含めて労使協定を採るとこ
ろが多いという。
派遣業界の関係者は「派遣先の社員と同じ賃金にする必要がある上に、基本給や
賞与、手当などの情報を提供することで問題が生じないかという懸念もある。
法的には情報提供を拒むことはできないにしても、現実には
『そちらで決めてください、さもないと取引しません』となる」と語る。

 ただし労使協定方式のハードルも低くはない。
2019年7月8日に発出された厚労省職業安定局長の通達では、基本給・賞与、通
勤手当、退職金について満たすべき水準を列挙している。
労使協定方式であっても事業者の中には立場の強さを背景に派遣社員の賃金を安
く設定して派遣する可能性もある。
そのため一般労働者の賃金額と同等以上とし、経験や成果によって昇給すること
を要件としている。通達では基本給・賞与等については厚労省の
「賃金構造基本統計調査」とハローワークの求人賃金の「職業安定業務統計」に
基づいた一般労働者の職種別平均賃金(時給換算)が示されている。
この基準値に「能力・経験調整指数」を乗じた経験年数ごとの時給が示され、
さらに都道府県別・ハローワーク別の「地域指数」を乗じて算出される(職種別
基準値×能力・経験調整指数×地域指数)。
この時給賃金には賞与や諸手当も加味されており、
労使協定方式を採用する場合、示された金額を最低基準とし、自社の派遣労働者
の賃金を決める必要がある。

 また、通達では時給賃金以外に通勤手当と並んで退職金も支給しなければなら
ない。均等・均衡待遇原則からいえば退職金もその性質や目的に照らして検証
し、不合理な待遇差があれば支払う必要がある。だが、基本給や賞与はともか
く、退職金制度がない企業も少なくない。正社員に退職金がない企業は当然、
非正規に支払う必要はないが、労使協定方式を採る派遣会社は原則支払う必要が
ある。なぜなら「労使協定方式で比較するのはあくまでも一般労働者の平均的な
水準であり、法律の趣旨に沿って平均的な退職金の水準と同等以上を支払う必要
がある」(厚生労働省需給調整事業課)。

 こうした負担は派遣先企業にものし掛かる。
派遣先企業は待遇改善が行われるよう配慮する義務が法定化されている。
前出の業界関係者は「通達によって基本給・賞与に加えて通勤手当、退職金を上
乗せしなさいという数字が示された。今後派遣先企業との価格交渉が始まるが、
派遣先が今の価格で吸収しろと言えなくなる。
こちら側としては通達に基づいて値上げを請求していくことになる」と語る。


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■■■ 企業規模要件が「51人以上」に拡大。
                  士業も厚生年金適用事業所に ■■■
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「全世代型社会保障」の重要な法改正の1つは、65歳から70歳までの就業機会
の確保を目指す高年齢者雇用安定法の改正であり、もう1つは被用者保険(厚生
年金保険・健康保険)の適用範囲を拡大する年金機能強化法の改正だ。
70歳までの就業機会の確保についてはすでに触れた(第211号)が、
厚生年金保険の適用範囲拡大については、企業規模要件を引き下げ、2022年10月
に「101人以上」、24年10月に「51人以上」と、2段階で対象企業を拡大するこ
となどが決まっている。

 2016年10月に施行された年金機能強化法では、
(1)週所定労働時間20時間以上、
(2)月収8.8万円以上(年収106万円以上)、
(3)雇用期間1年以上見込み、
(4)学生を対象外、
(5)企業規模501人以上の企業――5つの要件を満たす短時間労働者は強制的に加入す
ることになった。

制度施行以降、適用拡大によって新たに約43万人が被用者保険に加入している
(2019年3月末時点)。

 この範囲をさらに拡大すべく検討が進められてきたが、
当初は企業規模要件の撤廃が趨勢を占めていた。
厚労省の有識者による「働き方の多様化を踏まえた社会保険の対応に関する懇談
会」の議論のとりまとめ(9月20日)では企業規模要件について
「被用者にふさわしい保障の確保や経済活動への中立性の維持、法律上経過措置
としての規定となっていることなどの観点から、本来的な制度のあり方としては
撤廃すべきものである」とし、企業規模要件の撤廃を提起していた。

 懇談会の提案を受け、今度は社会保障審議会年金部会での議論に移ったが、経
団連と連合の代表委員がともに企業規模要件を撤廃すべきと主張し、経団連の代
表は従業員5人未満の個人事業所に対する適用も検討していく必要があると述べ
ている。労働者側代表の連合と使用者側の経団連の意見が一致するのはあまりな
いことだ。

 一方、適用拡大に反対していたのが日本商工会議所や飲食等の業界団体だ。
日本商工会議所は
(1)社会保険料負担が経営に悪影響を及ぼすこと、
(2)第3号被保険者を中心に就業調整を行うことによる人手不足の助長――
の2つを主張し、慎重な検討を求めていた。その後、議論の舞台は自民党に移っ
たが、政府・与党内で前述した2段階の拡大によって「51人以上」とすることが
決まった。この案は、年金部会に示されてもいなければ、もちろん年金部会の委
員も寝耳に水だった。

 企業規模要件の見直しに加えて、勤務期間要件については現状の雇用期間1年
以上見込みからフルタイムの被保険者と同様の2ヶ月以上とする。
さらに現在、非適用事業所となっている弁護士、税理士、公認会計士などいわゆ
る士業や5人未満の個人事業所などについては
「5人以上の個人事業所のうち、弁護士・税理士・社会保険労務士等の法律・会
計事務を取り扱う士業について、適用業種に追加する」(全世代型社会保障検討
会議中間報告)ことになった。


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■■■ 4月施行の改正民法施行で、
     未払い賃金等の請求権の消滅時効が現行の2年から延長に ■■■
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 最後に2020年にはもう一つの重要な法改正が待ち受けている。残業代など未払
い賃金等の請求権の消滅時効を延長する労働基準法の改正である。労基法115条
には「賃金(退職手当を除く)、災害補償その他の請求権は2年間、この法律の
規定による退職手当の請求権は5年間行わない場合においては、時効によって消
滅する」と規定している。

 しかし、2020年4月に施行される改正民法は
「使用人の給料等に係る短期消滅時効は廃止した上で、
(1)債権者が権利を行使できることを知った時から5年間行使しないとき
(主観的起算点)、
(2)権利を行使することができる時から10年間行使しないとき
(客観的起算点)――債権は消滅」すると規定している。

現行の民法では「短期消滅時効」は1年と規定しているが、民法の特別法である
労基法では、1年では労働者保護に欠け、10年では使用者に酷だということで
2年とした経緯がある。

 民法改正を踏まえ、労基法の取り扱いをどうするのか。厚労省の「賃金請求権
の消滅時効の在り方に関する検討会」の「論点の整理」では「将来にわたり消滅
時効期間を2年のまま維持する合理性は乏しく、労働者の権利を拡充する方向で
一定の見直しが必要ではないか」と提起し、20年4月の民法改正の施行期日を念
頭に置きつつ労働政策審議会での検討を提起した。

 これを受けて現在、公労使3者による労働政策審議会で法改正が審議されてい
るが、現行の2年の維持を主張する使用者側と、改正民法と同じ5年を主張する
労働者側との間で意見が対立している。現時点では現行の2年の消滅時効をさら
に延長する方向で調整が進められている。もし延長されると、企業においては管
理監督者問題や労働時間管理のあり方がこれまで以上に厳しく問われることにな
るだろう。                       (溝上 憲文)

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高齢者雇用対策は本格的検討へ

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■■■ 人生100年時代の高齢者雇用 ■■■
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 高齢者雇用対策の検討が本格化している。

高年齢者の労働力人口や就業率は増加傾向にあり、65歳以降の者が持つ就労に対
する意欲の強さも踏まえれば、年齢にかかわりなく活躍し続けることができる社
会の実現が求められることは、もはや国民的コンセンサスであろう。

既に高年齢者雇用安定法により、企業における希望者全員の65歳までの雇用確保
措置が整備されているが、2019 年6月1日現在で、31人以上規模企業の高年齢者
雇用確保措置の実施割合は、ほぼ100%となっている。(ただし、定年の引き上
げや定年制の廃止を行った企業は約2割にとどまり、まだ「65歳定年」の一般化
には程遠い。)さらに、継続雇用が大半であるが、66歳以上働ける制度のある企
業の割合は30.8%となっている。
(厚生労働省 令和元年「高年齢者の雇用状況」)

 こうしたことから、「成長戦略実行計画」(2019年6月21日閣議決定)に
おいて、70歳までの雇用就業の促進について後述のように政策の方向付けの大枠
が示されたところである。

労働政策審議会(職業安定分科会雇用対策基本問題部会)においても、これらを
受けて2019年9月以降その法制化に向けて議論を深め、この12月に報告(以下
「労政審報告」という。)として取りまとめられた。
また、高齢者雇用対策の問題は社会保障の在り方と密接不可分であり、本年9月
に設置された「全世代型社会保障検討会議」においても、高齢者雇用についての
議論が行われ、この12月に中間報告(以下「検討会報告」)が出された。

 検討会報告では、「雇用の期間を縦に延ばすとともに、現役の間から多様で柔
軟な働き方を広げることで、雇用の選択肢を横にも広げていく必要を挙げ、兼
業・副業など多様で柔軟な働き方の推進、70歳までの就業機会確保 による中高
年の就労促進や、若年層の就労促進と新卒一括採用慣行の見直しの加速化を図
る」ことなど基本的な考え方としてが示されている。
さらに重要なことは、今後の法制化の道筋として、70歳までの就業機会確保につ
いて、以下のように法制を二段階に分けて整備することの方向付けである。

・第一段階の法制では、事業主にいくつかの選択肢を示した上で、それらの措置
を制度化する努力規定を設ける。(このとき必要があると認める場合は、厚生労
働大臣が事業主に対して、個社労使で計画を策定するよう求める)。
なお、2020年の通常国会において第一段階の法案提出を図る。

・第二段階では、第一段階の進捗を踏まえて、現行法のような企業名公表による
担保(いわゆる義務化)のための法改正を検討する。
この際、かつての立法例のように、健康状態が良くない、出勤率が低いなどで労
使が合意した場合について、適用除外規定を設けることについて検討する。



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■■■ 事業主の講ずべき措置の内容 ■■■
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 検討会報告と労政審報告それぞれが示している70歳までの就業確保に向けた事
業主が講ずべき措置は、前述の「成長戦略実行計画」において既に決定事項とさ
れたものである。これは、大きく雇用による措置と雇用によらない措置の二つに
分かれる。

【1】雇用による措置
(a)定年廃止
(b)70歳までの定年延長
(c)定年後又は65歳までの継続雇用終了後も70歳まで引き続いて雇用
  (又は関係事業主(子会社・関連会社等)が雇用を確保
(d)定年後又は65歳までの継続雇用終了後、(関係の事業主以外の)
  再就職の実現

【2】雇用以外の措置
(e)定年後又は65歳までの継続雇用終了後に創業(フリーランス・起業)する
  者との間で、70歳まで継続的に業務委託契約を締結
(f)定年後又は65歳までの継続雇用終了後に、事業主が自ら実施する事業、
  または事業主が委託、助成、出資等するNPO等の団体が行う事業のいずれか
 による活動に70歳まで継続的に従事する

 このうち「雇用による措置」については、現行法制における65歳までの継続雇
用等の措置と同様である。したがって、高齢者雇用に多様な働き方の選択肢を広
げるため、フリーランス・起業など「雇用以外の措置」まで拡張した点が新し
い。この点は、とりわけ65歳以上の高齢者は、健康・体力や就業ニーズも多様で
あることから、できる限り柔軟な働き方を取り入れ高齢者の就業機会の拡大に貢
献することとしたものと考えられる。

 しかし、事業主の講ずべき措置として、「雇用以外の措置」がどこまでなじむ
のかどうか。こうした対応は本来労働者の自主性に委ねるべきものではないかと
いう考え方もあろう。また、雇用によらない働き方は、そもそも労働者保護の観
点からまだ検討が行われている段階であり、そうした議論の成果も見ないと「雇
用による措置」とは同等に扱えないのではないかという問題もある。このため、
事業主が「雇用の措置」を講じずに「雇用以外の措置」を講じる場合には、労使
合意を条件付けとする考え方が示されている。

 また、高齢者雇用の推進を図るためには、法制の整備だけでなく、以下のよう
な雇用管理上の取り組みやそれらに対する行政の援助が必要であることも重要な
点であるが、一般論的な指摘なのか、具体的な施策が考えられるかは今後の課題
である。

・高齢者のモチベーションや納得性に配慮しつつ、
 能力及び成果を重視する評価、報酬体系の構築を進める。

・高齢者を雇用する上で、加齢による身体機能の低下等を踏まえ、労働災害防止
 や健康確保の観点か ら対策を講じ、高齢者が安心して安全に働ける職場環境
 の構築を支援する。

・高齢期を見据えたキャリア形成支援・リカレント教育を推進する。


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■■■ 労働政策審議会での議論 ■■■
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 労政審議会では、「成長戦略実行計画」や検討会報告など政府全体の議論を踏
まえ、法制化に向けて論点整理と方向づけが図られた。
職業安定分科会雇用対策基本問題部会においての検討結果は、12月25日に取りま
とめられたが、全体は「高年齢者の雇用・就業機会の確保及び中途採用に関する
情報公表について」となっている。
中途採用による円滑な労働移動に関わる部分もあり、高齢者の問題は働き方改革
から流れる労働市場改革の一環として位置づけていることが理解できる。
大きな論点は以下のとおりである。

・各措置として事業主が講じる内容やこれまでの措置との均衡

・事業主の履行確保を図るための仕組み

・新たな制度の円滑な施行を図るために必要な準備期間

・新たな制度の創設に加えて、高齢者の活躍を促進するために必要な支援
 とりわけ70歳までの就業機会の確保については、検討が必要な主なものとし
 て、以下のような点が指摘されている。

・「70歳までの就業継続の可能性」と「就業時の待遇の確保」が重要であり、
 雇用によらない選択肢のみを講じる場合には、労使合意が必要か。

・70歳までの就業確保につい ても、60歳まで雇用していた事業主が、法律上、
 措置を講じる努力義 務を負うと解することが適当か。

・健康状態が 良くない、出勤率が低いなどで労使が合意した場合について、
 適用除外規定を設けるなど、対象者を限定した制度を導入することを
 可能とするか。

・(1)事業主がどの選択肢を用意するか
 (2)雇用以外の措置のみを導入する場合
 (3)複数制度を導入した場合に個人にどの制度を適用するかについて、
   どのように話し合うか。
・「個人とのフリーランス契約への資金提供」及び「個人の起業支援」は、
 事業主からの業務委託により就業すること、
 「個人の社会貢献活動参加への資金提供」は、事業主が自ら又は他の団体等を
 通じて実施する事業による活動に従事することが考えられるか。
・複数の選択肢を組み合わせることにより70歳までの就業機会を
 確保することも、努力義務を満たす措置を講じるものであると解するか。


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■■■ 今回の改正の背景 ■■■
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 今回の改正において注目すべき点は、「高齢者」の概念を大きく変更していこ
うという意図が強くでていることである。
現に、「全世代型社会保障検討会議」の中間報告では、今後の改革の視点とし
て、「従来の社会保障は年齢による画一的な取扱いがなされることが多かった
が、年齢を基準に「高齢者」と一括りにすることは現実に合わなくなっている。
(中略)今後は、「高齢者」や「現役世代」についての画一的な捉え方を見直
し、生涯現役(エイジ フリー)で活躍できる社会を創る必要がある。」として
いる。この点から考えれば、以下のような特徴が指摘できよう。

 第一に、65歳を分水嶺として、労働政策と社会保障政策をすみ分けてきたとい
うこれまでの政策理念の変更である。
すでに、雇用保険の適用が65歳以上に拡大されるなど順次変更されてきている
が、今回70歳までの「現役」としての雇用を推進するという方向性と、年金受給
開始の繰り下げを奨励していくという方向性が鮮明になっている。その意味で分
水嶺が70歳までに延びたともいえるし、分水嶺という考え方そのものが曖昧化し
てきたともいえよう。

 この場合に考えなければならないのは、平均寿命の延伸が健康年齢の延伸と同
時並行的に進んでいるかどうかの検証の必要性である。
これまで高齢者雇用の考え方としては、60歳代が個人の健康・体力等の個人差が
大きくなる時期であり、加齢に応じてなだらかに引退志向が強まっていくという
のがこれまでの事実認識であった。また、そのことの反映として、人々のライフ
スタイルへの意識も必ずしも就労一辺倒ではなく、むしろハッピーリタイアと
いったような引退志向も考える必要もあった。こうした点についての実態分析は
更に行う必要があろう。

 第二に、「人生100年時代」を見据えてというように、長寿化と超高齢化の進
展が今回の検討の大本となっていることは間違いない。
高齢者雇用についていえば、「働く意欲のある高齢者がその能力を十分に発揮
し、年齢にかかわりなく活躍できる社会の実現に向けた環境整備」(労政審報
告)が政策の基本的前提である。
しかし、現実には、「人生100年時代の到来をチャンスとして前向きに捉えなが
ら、働き方の変化を中心に据えて、年金、医療、介護、社会保障全般にわたる
改革を進める。」(「全世代型社会保障検討会議」の中間報告)とあるように、
まず高齢者の就労促進があって、それが他の社会保障制度改革の前提となってい
るような感がある。

 これも「高齢者」概念の変更であり、受益のみの世代とするのでなく、現役世
代として負担と給付の両面での貢献を期待するという基本戦略の表れとみること
ができる。このこと自体は、既に我が国が高齢化の先進国になった時点から議論
されてきたことであり、いつまでも生産年齢人口は15歳〜64歳という線引きでよ
いのかという認識も強まっていた。
たしかに「現役世代の負担上昇を抑えながら、令和の未来をしっかりと見据え
た、全ての世代が安心できる社会保障制度を構想する必要」は
そのとおりである、しかし、実際には高齢者は就業機会が確保されても、社会保
障については給付の抑制と「現役」としての負担増大となる可能性も考慮しなけ
ればならないだろう。これも、個人差があることを前提とした制度設計が必要な
所以である70歳以上の雇用就業の推進が焦点となること自体は、
一つの自然な流れである。ただ、「だれもが」ということで一律的な制度設計と
いう形でなく、高齢者個人の特性やニーズの多様性を踏まえ、柔軟性を持ったも
のとなるかどうかが今回の大きなポイントであろう。

今後の法制化論議の一つの焦点である。          (北浦 正行)





編┃集┃後┃記┃
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 明けましておめでとうございます。
皆様のご活躍とご健勝を祈念申し上げます。
本年もメルマガの購読をよろしくお願い申し上げます。

「人生100年時代」― 如何に充実した人生を過ごすかが問題です。

 先日、世界が注目する84歳プログラマー若宮正子さんが、
 「元気な源は“好奇心”旺盛で突き動かされている」と話されていました。

 今年は、突き動かされる“好奇心”探しをしてみるのもよいかなーと
思いました。

 12月27日(金)に厚生労働省労働基準局労働関係法課から
労働政策審議会建議「賃金等請求権の消滅時効の在り方について」が
公表されました。
労働政策審議会は、賃金等請求権の消滅時効を「当面3年」で
大筋了承しました。

厚生労働省は、次の通常国会で労働基準法改正案を提出し、
今年4月施行を目指します。

 今年は、今まで以上に法改正の対応に追われる年となります。   (白石)



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発行者 社会保険労務士法人雇用システム研究所
代表社員 白石多賀子 東京都新宿区神楽坂2-13末よしビル4階
アドレス:info@koyousystem.jp

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