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初任給は上がるのに、なぜ中高年の賃金は下がるのか
 ~背景には賃金制度改革の浸透。厳しい試練が待つ50代~

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┏━━┓    
┃\/┃    ★雇用システム研究所メールマガジン★
┗━━┛                           第245号
                              2022/09/01

           http://www.koyousystem.jp
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虫の音に少しずつ秋の訪れを感じるようになりました。
皆様いかがお過ごしでしょうか。

雇用システム研究所メールマガジン第245号をお送りします。

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□ 目次 INDEX‥‥‥‥‥

◆初任給は上がるのに、なぜ中高年の賃金は下がるのか
  〜背景には賃金制度改革の浸透。厳しい試練が待つ50代〜

■中高年の賃金を引き下げて若年世代に充当
■年齢給廃止、“脱年功型”の職務・役割給導入が増加
■50代の転職決定者は増加するも、高技能者に限定
■経済学者は「転職すると、給与が下がるのは普遍的真理」
                 (以上執筆者 溝上 憲文)

■地域別最低賃金の全国加重平均額は961円――現行制度で過去最高の上げ幅
■2022年度の「賃上げ実施率」は82.5%、ただし「3%未満」が7割
■これまで物価上昇に対して労使はどう対応してきたか
                 (以上執筆者 荻野 登)


編集後記(白石多賀子)

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◆初任給は上がるのに、なぜ中高年の賃金は下がるのか
  〜背景には賃金制度改革の浸透。厳しい試練が待つ50代〜

 新卒初任給を大幅アップが話題になっている。
2月末にバンダイが22万4000円の初任給を今年4月から30%増の29万円に引き上げる
と発表し、メディアでも注目を浴びた。バンダイ以外でも「獺祭」で有名な
旭酒造が大卒初任給を9万円増の30万円に引き上げている。
また、DMG森精機は8月、23年4月入社の新卒社員の初任給を大幅に引き上げる
と発表。
大学学部卒の初任給は10%増の30万円、
修士課程修了者は9%増の31万円に引き上げる。
 4月の春闘でも大手電機メーカーの東芝、日立製作所、NECの3社は昨年の
富士通と同じ1万円の大幅増を回答した。産労総合研究所の
「2022年度決定初任給調査」(7月5日発表)でも初任給を引き上げた企業は
21年の29.8%から41.0%に増加。大学卒は21万854円、修士卒23万840円だった。


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■■■ 中高年の賃金を引き下げて若年世代に充当 ■■■
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 しかし初任給を大幅に上げてしまうと、その影響は在籍者にも及ぶ。
多くの会社には勤務年数や能力・経験に基づく「賃金テーブル」があり、
例えば初任給を5万円引き上げると入社2年目以降の社員の社員全体の賃金を
上げる必要がある。
つまり会社にとっては人件費の大幅アップにつながる。近年は20代の賃金は
上昇傾向にあるが、一方、中高年の賃金は下降傾向にある。

 年齢階級による賃金カーブ(所定内給与)は20〜24歳を100とした場合、
1995年の50〜54歳194.4であったが、2020年は173.6まで低下している。
男性は212.2から195.7となっている(労働政策研究・研修機構調査)。
中後年の賃金カーブが緩くなっている背景には60歳定年後の再雇用年齢が
延びたことにより、中高年世代の賃金を引き下げているという説もある。
いずれにしても全体の賃金が横ばいで推移していることを考えると、
おそらく企業は中高年の賃金を減らし、若年世代に充当し、人件費のパイを
大きく変動をさせていないと推察される。

 実際に企業の現場でも「今の40代以上の社員は昔に比べて仕事も
忙しくなっているが、管理職ポストの減少に加えて、定期昇給もなくなり、
給与が横ばいという人も増えている」
(サービス業人事部長)という声もある。

 なぜ中高年の賃金が減少ないし横ばいなのに初任給など20代の賃金を
上げることが可能なのか。
その要因の1つは”脱年功賃金”による賃金制度の改革にあるのではないか。


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■■■ 年齢給廃止、“脱年功型”の職務・役割給導入が増加 ■■■
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 実は2000年以降、一部の大手企業や振興企業では、
一般従業員・主任・係長・店長・課長クラスなど組織編成上の役割責任を定義し、
評価する役割給制度に移行する企業が増えていた。
さらにジョブ・ディスクリプション(職務記述書)を作成し、
職務評価を実施してジョブグレードをつくり、グレードの賃金水準を世間相場に
紐付ける職務給を導入する企業も増えていった。

今流行しているジョブ型賃金である。

労務行政研究所の「人事労務諸制度の実施状況調査」(2022年2〜5月)によると、
職能資格制度導入企業は54.5%、役割等級制度42.5%、
職務等級制度32.9%となっている。
100%を超えるのは管理職のみ職務等級制度で一般社員は職能資格制度という
企業も含まれているからである。
一方、賃金の構成種別では職務・役割給は2010年に38.0%だったが、
22年には職務給41.1%、役割給44.2%に上昇している。
一方、年齢給は2010年に32.1%だったが、22年に26.4%に減少している。

 これは勤続年数や能力・経験など「人基準」によって昇給していく職能給を
廃止し、職務や役割など「仕事基準」で給与を決める仕組みへの流れといえる。
職務給になれば同じ職務に留まっている限り、年齢に関係なく給与は変わらない。

しかも日本の職務・役割給は欧米の職務給と違い、固定ではない。
職責を果たせなければ管理職でも降格・降給が発生する仕組みだ。
40代以降の比較的給与が高い層の賃金を変動費化できるメリットもある。

 つまり、その分を初任給など若い世代の給与に充当することも可能になる。
ちなみに今年初任給を1万円引き上げた日立製作所やNECはジョブ型雇用を
標榜する企業だ。
東芝も役割や職務で賃金を決める
「役割等級制度」を2020年4月から導入している。
2021年にやはり初任給を1万円引き上げた富士通もジョブ型人事制度の導入で有名だ。
職務給を導入すると、初任給だけではなく優秀な中途採用者を既存の社員より
高い報酬で迎えることも可能になる。


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■■■ 50代の転職決定者は増加するも、高技能者に限定 ■■■
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 ところで給与が減少傾向にある40〜50代の転職が増えている。
エン・ジャパンの「ミドルの転職」調査によると、
転職者全体に占める50代以上のミドルシニアの転職決定率は、
2018年は16.1%だったが、2020年に19.1%、2021年に21.1%と徐々に増加している。

 ちなみに転職決定者の平均年収は40代が2020年の610万円から
2021年は620万円、50代は640万円から670万円と上昇傾向にある。
これだけを見ると、40〜50代の人は、自分にも転職成功のチャンスがあるかもと
思うかもしれないが、早計は禁物だ。

 確かに求人ニーズは高まっているが、もちろん培ったスキルを生かせる
即戦力人材に限定される。
その中でも企業が求めるのは高技能のハイクラス人材だ。
たとえば現在年収800万円以上の人で2020年以降に転職で年収が上がった
職種の上位は、ビジネスモデルの変革が期待されるDX人材など
「技術系(IT・Web・通信系)」、
「SCM・ロジスティクス・物流・購買・貿易系」、
{経営企画・事業企画系}「管理部門系」などだ。

 求められる職種の技能は年齢に関係はないが、とくに最先端の
ITスキルを備えたDX人材は40〜50代にそれほどいるとは思われない。
上記の職種以外でも50代を積極的に採用している大手建設関連会社の人事担当役員は
「年齢に関係なく毎年数十人程度採用しているが、
求める要件は1級建築施工管理技士などの資格を持ち、経験豊富な人。
10数人のエンジニアを率いる建設現場の代理人を任せられる人材で、
50代でも採用しているが、ただし、54〜55歳ですと定年までわずかしかない。
そこで数年前に定年を65歳に延長し、70歳まで働ける制度を設け、
55歳で転職しても10年間は現役で働けるという安心感もある。
その結果、50代の応募者も増えている」


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■■■ 経済学者は「転職すると、給与が下がるのは普遍的真理」 ■■■
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 50代でも歓待されるが、応募者の多くはゼネコン出身の技術者だという。
高いスキルを持つ人であれば50代にも門戸が広がるが、
特に前職が年功型賃金体系の場合、転職すると下がるのが一般的だ。

 一橋大学経済研究所の神林龍教授は「年功的賃金体系の仕組みは、
入社から定年退職までの貢献分と支払い分の合計値が一致することを前提に
賃金カーブが描かれる。

貢献分と支払い分が一致しない若手社員は年輩になった時に、
貢献分にプラスして過去の債務を返してもらう仕組みが年功賃金。
今の会社にいれば債務が支払われるが、他の会社に移ったら、
転職先はその人に債務はないので、結局数百万円のギャップが生じる。
転職すると賃金が上がるというのは間違い。そもそも転職すると、
平均的に給与が下がるというのは普遍的真理だ」と語る。

 年功的賃金体系であっても55歳以降、賃金は低下していく。
「1つの考え方は、自分が一番高く売れるときに転職し、少しでも賃金が
高い地点を確保し、その後の落ち方を操作する。あるいは落ち方を緩和できる
ように個人で工夫する方法もあるだろう」(神林教授)と言う。

 いずれにしても50代のおじさんには厳しい試練が待ち受けている。
70歳までの就業が不可避になるなか、
今後の職業人生をどう描くのか、真剣に考えるべきなのかもしれない。
                             (溝上 憲文)


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■■■ 地域別最低賃金の全国加重平均額は961円
                ――現行制度で過去最高の上げ幅 ■■■
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 厚生労働省は8月23日、都道府県に設置されている地方最低賃金審議会が答申した
2022年度の地域別最低賃金の改定額を取りまとめた。
石油や原材料価格の高騰による物価上昇が続くなか、
改定後の全国加重平均額は961円で、前年度の930円から31円(3.33%)の引上げは
1978年度に最低賃金額改定の目安制度が始まって以降で最高額となった。
改定された最低賃金は、10月1日から中旬にかけて順次発効される。

 地方での審議に先立つ8月2日に厚生労働省の中央最低賃金審議会は、今年度、
都道府県をAからDランクに分け、最低賃金の改定の目安として、
過去最高となる30〜31円の答申を地方最低賃金審議会に示していたが、
目安を下回った都道府県はゼロ。
逆に高知や沖縄など22道県の引き上げ額は目安を上回り、前年度の7県から3倍以上増加した。

 都道府県ごとの引上げ額は、岩手県、鳥取県、島根県、高知県、沖縄県が30円の目安を3円上回り、
山形県、愛媛県、佐賀県、長崎県、熊本県、大分県、宮崎県、鹿児島県も30円の目安を2円上回った。
また、茨城県、山梨県、兵庫県が31円の目安を1円上回り、
北海道、青森県、秋田県、新潟県、山口県、徳島県も30円の目安を1円上回った。
このほかの25都府県は目安通りだった。

 引き上げ額ごとにみると、30円が11県、
31円が20都道府県、32円が11県、33円が5県となった。
都道府県別に改定後の時給がもっとも高いのは東京都の1,072円、
ついで神奈川県の1,071円。
大阪府も1,023円となり、初めて1,000円を超えた。
最低額は青森、秋田、愛媛、高知、佐賀、長崎、熊本、宮?、鹿児島、沖縄の853円。
最高額と最低額の差は219円だが、比率は79.6%(昨年度78.8%)となり、
8年連続で改善した。

今年度の最低賃金に関する中央最低賃金審議会は6月28日に初会合が開かれ、
別途設置された公労使による「目安に関する小委員会」で実質的な詰めが行われた。
5回の小委員会を経ても、労使が意見の一致を見なかったことから、
改定目安についてはこれまでと同様に「公益委員見解」として、取りまとめられた。

 審議の中で労働者側は、昨今の急激な物価上昇が働く者の生活に影響を及ぼしており、
とくに切り詰めることができない生活必需品の上昇が最低賃金近傍で働く者の生活を
圧迫していることを重視。
生活水準の維持・向上の観点から消費者物価上昇率を考慮した引上げが必要であると
主張した。

 一方、使用者側は新型コロナウイルス感染拡大に加えて、原材料費等の高騰、
円安の進行、海外情勢等の影響を受けている中小企業の経営状況や、
地域経済の実情を各種資料から的確に読み取る必要があると強調。
さらに、地方における昨年度の答申に対する不信・不満を払拭できるよう、
目安額とそれを導き出すロジックについて、労働者・企業が納得できるものを
示すことが求められると訴えた。

 こうした労使の主張を踏まえて、公益委員は、

(1)今春闘における賃金引上げの水準が反転上昇したこと、
(2)今年の賃金改定状況調査結果における賃金上昇率も、2002年以降最大であるものの、
 消費者物価の上昇分が十分に勘案されていない可能性があること
 ――などのデータに加え、生計費については、
 今年4月の消費者物価指数の「持家の帰属家賃を除く総合」が示す
「3.0%を一定程度上回る水準とすることが考えられる」など、
 データを基にした考え方を明示。

 さらに、政府の「できる限り早期に全国加重平均が1,000円以上」とする方針を
踏まえる一方、通常の事業の賃金支払能力については、賃上げ原資を確保することが
難しい企業も少なくないことから、引上げ率の水準には一定の限界があると考えられ
ると指摘。
そのうえで、今回はこれらを総合的に勘案し、今年度の各ランクの引上げ額の目安を
検討するに当たっては「3.3%を基準」として検討することが適当との見解を示していた。


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■■■ 2022年度の「賃上げ実施率」は82.5%、ただし「3%未満」が7割 ■■■
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 民間の調査機関である東京商工リサーチが8月23日に発表した2022年度
「賃上げに関するアンケート」調査によると、
2022年度の「賃上げ」がコロナ前の水準に並ぶ82.5%の企業で実施したことが分かった
(調査は8月1日〜9日にインターネットによるアンケートで実施、有効回答6,204社を集計)。

 背景には製造業などの業績回復だけでなく、断続的な物価上昇も影響したとみている。
一方、コロナ禍の継続で業績回復に至らない企業は賃上げが難しく、
規模別では、大企業が88.1%と9割に迫ったが、中小企業は81.5%にとどまった。
産業別でも、最高の製造業が87.2%だったのに対し、
最低の農・林・漁・鉱業は60.7%だった。
また、大企業は農・林・漁・鉱業、運輸業、建設業、製造業で実施率が9割を超えたが、
中小企業は最高の製造業でも86.7%で、全産業が9割を下回った。

 同センターは、賃上げの実施は「規模・業種により濃淡が出た格好だ」とみている。
とくに運輸業での動向が顕著で、賃上げを実施した大企業は95.2%(42社中、40社)
だったのに対し、中小企業は73.9%(207社中、153社)で、21.3ポイントの大差がついた。
規模間の格差が広がり、人手不足が深刻化するなか、
「今後は中小企業の人材確保に影響を与えることも懸念される」としている。

 賃上げした企業(5,092社)にその項目を聞いたところ、最多は、
「定期昇給」の81.0%(4,128社)。
次いで、「賞与(一時金)の増額」44.2%(2,255社)、
「ベースアップ」42.0%(2,142社)、「新卒者の初任給の増額」18.2%(927社)の順。
前年度と比べ「定期昇給」は2.1ポイント(前年度83.1%)低下したが、
「賞与(一時金)の増額」(同37.7%)は6.5ポイント、
「ベースアップ」(同30.3%)は11.7ポイント、それぞれ上昇した。
物価上昇などを背景に「ベースアップ」が3年ぶりに4割を超えた。

 実施内容では、賃上げ率は、「3%未満」が69.8%を占めている
(大企業81.5%、中小企業68.3%)、
「5%以上10%未満」は7.5%(大企業2.4%、中小企業8.1%)で、
中小企業での高いアップ率が目立つ。

 こうした動向を踏まえて、同センターは岸田政権が掲げる「新しい資本主義」では
賃上げが重要課題に浮上しているが、原材料価格や人件費上昇を価格転嫁することが
難しいなか、
「中小企業は人件費の吸収が容易でない状態が続くだけに、
包括的な支援が必要になっている」と分析している。


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■■■ これまで物価上昇に対して労使はどう対応してきたか ■■■
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 沈静化の気配がないインフレに対して欧米は金融引き締めに舵を切った。
日本の物価上昇は各国に比べて低いものの、政府・日銀は賃金の上昇を伴った
物価上昇の循環を目指している。

 とはいえ、その道筋はなかなか見えてこない。
では、こうした現状にどう対応すべきなのかについては、歴史から学ぶ姿勢が重要になる。
そこで、戦後、物価高に直面した時、政府や労使がどう対応してきたかを
簡潔に振り返ってみる。

 終戦直後は極端なモノ不足に陥っていたためハイパーインフレ―に近い状況だった。
この時、戦後民主化で相次いで結成された労働組合が直面した課題が
「食える賃金」の確保。
物価高騰に対処するため、労働組合は「飢餓突破資金」「越冬一時金」などの
名目で特別賞与を求め、経営側も「物価手当」「インフレ手当」などの形で応えた。

また、「食える賃金」として賃金制度面から生計費を重視した
「電算型賃金」が登場する。
この賃金体系は多くの企業に広がり、年功型の賃金体系が確立されていく。
一方、経営側はインフレを引き起こすような賃上げを回避するために
「定昇制度」や「職務給」の導入を提唱する。

 1960年代に入ると、高度経済成長が加速。
賃金も物価上昇への対応というよりも、国際的に低位にあった日本の賃金水準自体の
引き上げに政府や労組は注力する。
61年に池田内閣は「国民所得倍増計画」を打ち出し、これに呼応するように労働側は、
63年から「ヨーロッパ並み賃金」の実現を目標に掲げた。
労働力需給のひっ迫もあり64年からは10年連続で賃上げは10%超となり、
所得倍増計画は7年で完結。
このころ経営側は、「賃金上昇率の平均を国民経済の実質生産性上昇率に一致させれば、
国内インフレはゼロになる」との生産性基準原理で対抗する。

 73年の第一次石油危機で高度成長は終焉を迎える。
74年の消費者物価は前年比で20%増の「狂乱物価」となり、
春闘もこの高いインフレ率のもと展開した結果、大手企業では平均32.9%の大幅賃上げで
決着する。

 しかし、このままの賃上げを続ければインフレと景気後退が同時進行する
スタグフレーションに陥りかねないことから、
経営側は「75年は15%以下、76年以降は一桁」というガイドラインを示した。
これに対して労働側は欧米で議論されていた「所得政策の導入に他ならない」と反発。
しかし、民間労組を中心に経済との整合性を重視した対応が必要ではないかとの
意見が強まり、
「前年度実績プラスアルファ」の要求パターンを見直し、1975年の春闘では
インフレ沈静化のため国民経済との整合性を重視した自制的賃金要求である
「経済整合性論」に転換する。
この結果1975年の賃上げは13.1%に低下。1975年以降、マクロ経済の動向に
立脚した賃金決定が定着する。

 この「経済整合性論」は、インフレを抑制しつつ、
経済成長率が4〜5%程度の中成長を達成するというマクロ経済の目標面では
大きく貢献し、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」の評価も生まれる。

 しかし、バブル崩壊後、日本経済は暗転。90年代後半からは、
デフレの進行が加わり、労働側の「定期昇給+過年度物価上昇分+生活向上分」
というインフレを前提とした要求方式も有効性を失い、
非正規雇用の増加も加わり、賃上げ率は下落の一途をたどった。

そして、いまや日本の賃金水準は主要先進国の中で低位に落ち込んでしまった。
このように、戦後の経過を振り返ると、労使とも物価の動向を踏まえて、
ミクロ・マクロ両面から賃金決定のあり方を模索し、その解を見出そうとしていた。

 先の調査でみたように、足元の物価高に対応するため、
ベアを実施する企業が増えているだけでなく、終戦直後のように
「インフレ手当」などの支給を実施する企業も出てきている。
さらに、人材確保のため、「初任給の増額」に踏み切る企業も増加しており、
その結果、在職者賃金の調整も必要になってくる。
こうした個社ごとの対応も必要だが、物価全般への対策は、
金融・経済政策だけで完結できるものではなく、
マクロ・ミクロ両面で労使の役割が大きいことを忘れてはならないだろう。
                             (荻野 登)



編┃集┃後┃記┃
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 空の雲、吹く風は秋です。

 8月31日、日経新聞朝刊の一面トップに「勤務地・職務 明示求める」の
大見出しが目に飛び込みました。
厚生労働省は企業に対して、将来の勤務地や仕事の内容を従業員に明示するよう
労働基準法の省令を2023年中に改正する方向で検討するとのことです。

 この9月から10月にかけて、各メーカーは商品の値上げを宣言しています。
先日、日経新聞に都道府県「物価編 食料費」ランキング(2021年)が
掲載されていました。
穀物や魚介類、肉類、野菜、果物など食料が最も高いのは福井県と沖縄県でした。
この要因は、食糧自給率が低い県ほど県外調達で輸送費が増加してコストが
かさむためです。
10月から最低賃金額も大幅に上がりますが、物価上昇に追いつきません。

 今年はすでにインフルエンザが流行っています。
マスク生活で免疫力が低下していますので、くれぐれもお気をつけください。
                                  (白石)


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発行者 社会保険労務士法人雇用システム研究所
代表社員 白石多賀子 東京都新宿区神楽坂2-13末よしビル4階
アドレス:info@koyousystem.jp


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