動き出した40年ぶりの労働基準法改正議論(1)
~労基法上の「労働者性」判断見直しの論点~
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
★雇用システム研究所メールマガジン★
< 第277号 2025/05/01 >
http://www.koyousystem.jp
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
季節は春から夏へ変わる時期を迎えています。
皆様いかがお過ごしでしょうか。
雇用システム研究所メールマガジン第277号をお送りします。
───────────────────
□目次 INDEX‥‥‥‥‥
動き出した40年ぶりの労働基準法改正議論(1)
~労基法上の「労働者性」判断見直しの論点
■「労働者制の判断」「過半数代表」「労働時間法制」の見直し等がテーマ
■プラットフォームワーカーなど労働者性の判断が困難に
■労働基準局に学識者の「研究会」を設置
(以上執筆者 溝上 憲文)
■熾烈化する新卒採用戦線――強まる売り手市場と苦戦する中小企業
■厚生労働省の2025年度予算、三位一体の労働市場改革の推進などに重点
■接近する連合と石破政権――政労会見が16年ぶりに開催
(以上執筆者 荻野 登)
集後記(白石多賀子)
==============================================
動き出した40年ぶりの労働基準法改正議論(1)
~労基法上の「労働者性」判断見直しの論点
40年ぶりとなる労働基準法の本格的な改正議論が厚生労働省の労働政策審議会で始まった。
その骨格となるのが今年1月8日に出された有識者の
「労働基準関係法制研究会報告書」だ。
厚労省は今年夏に労政審の意見を取りまとめ、年末を目途に報告書を建議、
法案化を経て来年の通常国会に労基法改正案を上程するシナリオを描いている。
==============================================
■「労働者制の判断」「過半数代表」「労働時間法制」の見直し等がテーマ
「労働基準関係法制研究会」(座長:荒木尚志東京大学大学院法学政治学研究科教授)は
2024年1月からスタートし、約1年をかけて25年1月8日に報告書を取りまとめた。
研究会の目的は2つ。
1つは新型コロナウィルス感染症の発生から5年経過し、
その間に労働者と労働者を取り巻く企業環境が変わる中で今の時代に合った
労働基準関係法制について中長期的な検討を行うこと。
もう1つは働き方改革関連法が成立し、2019年から時間外労働の上限規制が施行された
5年が経過したことから施行状況を踏まえて見直すことにある。
具体的には総論的課題として、
(1)労働基準法における「労働者性」について、
(2)労働基準法における「事業」について、
(3)過半数代表者のあり方を含む労使コミュニケーション、
(4)労働時間法制の具体的課題
――の4つを挙げている。
いずれも企業労使の実務においても重要な課題であり、
それぞれについて改正等を含む提言を行っている。
(1)の労働者性については、労基法第9条で労働者を
「職業の種類を問わず、事業又は事務所……に使用される者で、賃金を支払われる者」
と定義している。
この条項に該当する人が労働者であるが、契約の名義上は請負や業務委託という
形で働いていても実態としては労働者であるのに業務委託としている
法律を潜脱している事例も少なくない。
そのため厚労省は全国にある340余りの労働基準監督署において
現場の判断を統一的に扱うという観点から、
昭和60年の労働基準法研究会報告で整理した労働者性の判断基準を示し、
現場の運用基準として使用している。
また、司法判断でもこの報告書の判断要素を参考にしてきた経緯がある。
■プラットフォームワーカーなど労働者性の判断が困難に
しかし、労働基準法研究会報告から40年が経過し、
その間にさまざまな働き方が増え、判断が難しくなっている。
最近ではフードデリバーや宅配などのプラットフォームワーカーが世界中に拡大し、
加えてAIやアルゴリズムによる労務管理のデジタル化の拡大・発展
によって労働者性判断のわかりにくさが増大し、予見可能性が低くなりつつある。
その上で報告書はプラットフォームワーカーの労働者性の予見可能性を高めるための
諸外国事例として以下の2つを挙げている。
(1)プラットフォームワーカー、AIやアルゴリズムによる労務管理の
デジタル化等の拡大・発展によって、労働者性判断のわかりにくさが増大し、
予見可能性が低くなりつつある。
(2)諸外国では、個人で役務を提供している者を「労働者である」と推定した上で、
それに異論がある場合には使用者に反証を求める方式(米国のいわゆるABCテスト)や、
各国の法令、労働協約等に従って、指揮(direction )と支配(control)を含む
要素が見いだされる場合には、法的に雇用関係があると推認する方式
(2024 年10 月に成立したEUの
「プラットフォーム労働における労働条件の改善に関する指令」)等
の法的対応が議論されてきた。
また、プラットフォームワーカーの問題については2025年(令和7年)から
ILO総会において新たな国際労働基準の策定に向けた議論が開始される予定となっている。
こうした世界の動きを踏まえ、報告書は
「原則的な判断基準の議論と並行して、個別の職種について、労働者性を判断するに当たって
参考となるようなガイドライン等を必要に応じて示していくことが考えられる。特に、近年拡大し、
労働者性の判断が問題となっているプラットフォームワーカーについても、
予見可能性を高め、法的安定性を高めていくことが必要である」と述べている。
■労働基準局に学識者の「研究会」を設置
その際の論点として以下の3つを挙げている。
(1)人的な指揮命令関係だけではなく、経済的な依存や交渉力の差等について、どう考えるか
(2)労働者性の判断において、立証責任を働く人側に置くのか、事業主側に置くのか(推定規定)
(3)労働者性の判断に当たり活用できる具体的なチェックリストを設けられるか
こうした労働者性判断の予見可能性を高めていくために専門的な研究の場を設ける必要があるとし、
報告書は、昭和60年の労働基準法研究会と同様に
「労働者性の判断基準に関する知見を有する専門家を幅広く集め、
分析・研究を深めることが必要である。このため、厚生労働省において、
継続的に研究を行う体制を整えることを、本研究会として要請する」と述べている。
この要請に基づいて厚労省は3月11日に開催された労働政策審議会労働条件分科会に、
厚労省労働基準局長が
「労働基準法上の労働者性に関する幅広い知見を有する専門家を参集し、
労働者性の判断基準に関する分析・研究を深めることを目的として本研究会を開催する」
ことを提起した。
検討事項には労働基準法上の労働者性の判断基準のあり方を含め、
前述したプラットフォームワーカーなどの新しい働き方の労働者性の
予見可能性を高める方策も含まれている。
当日の労政審では研究会の設置を了承し、今後学識者の研究会を発足させる。
プラットフォームワーカーの労働者性のあり方については、
昨年11月に施行されたフリーランス法とも関係してくる。
プラットフォームワーカーの宅配労働者が労災保険を認められた事例もあり、
判断基準の明確化は労災保険法や労働安全衛生法、雇用保険法なども影響を受けることになり、
研究会の動向も注目される。
次回は、就業規則等に関係する「過半数代表者」のあり方について提起した
「労使コミュニケーションのあり方」に関する論点を紹介したい。 (溝上 憲文)
==============================================
==============================================
■熾烈化する新卒採用戦線――強まる売り手市場と苦戦する中小企業
人手不足が常態化するなか、新卒採用市場における人材獲得競争が熾烈化している。
まず学生側の動向をみると、就職内定率はうなぎ登りで、売り手市場の傾向がさらに強まっている。
厚生労働省と文部科学省が3月14日に発表した大学等の
2025年3月卒業予定者の就職内定状況(2月1日現在)によると、
大学生の就職内定率は92.6%で、前年同期を1.0ポイント上回り、
調査開始(1999年度)以降で同時点での最高を記録した。
大学生の就職内定率は、新型コロナの影響で2021年3月卒が89.5%まで落ち込み、
2年続けて90%を下回ったが、2022年3月卒からは再び右肩上がりとなり、
4年連続で上昇している。
大学生の就職内定率を男女別にみると、
男子は前年同期比1.0ポイント増の91.6%で、
女子も同1.0ポイント増の93.8%。内定率は女子のほうが2ポイント以上高い。
就職内定率が過去最高水準にある一方、企業側の充足度は低い水準となっている。
厚生労働省が3月25日に発表した「労働経済動向調査」(2月1日現在)の
特別調査項目である「2025年新規学卒者の採用内定状況」の結果によると、
採用計画数どおり採用内定(配属予定)できた事業所の割合は、
「高校卒」と「大学卒(理科系)」で56%、「大学卒(文科系)」で
48%とほぼ半数にとどまっている。
また、「採用計画数より多く採用内定(配属予定)をした」事業所は
いずれの学歴も1割に達していない。学歴別にみると、
「高校卒」6%、「大学卒(文科系)」6%、「大学卒(理科系)」4%などで、
内定辞退者が発生した場合、未充足に転じてしまう。
こうした背景には、企業側の採用意欲の高さもある。
同調査で2025年新規学卒者の採用計画・採用予定がある事業所の割合を学歴別にみると、
「高校卒」が44%(前年比1ポイント増)、
「高専・短大卒」が37%(同2ポイント増)、
「大学卒(文科系)」が45%(同2ポイント増)、
「大学卒(理科系)」が43%(同1ポイント減)などとなり、
採用環境が厳しい中でも企業の採用意欲は衰えていない。
「採用計画数に採用内定(配属予定)が達していない」割合を、
学歴ごとに企業規模別にみると、おおむねすべての学歴で、
企業規模が小さくなるほど割合が高くなる傾向にある。
「1,000人以上」ではすべての学歴が4割未満となっている一方、
999人以下の各規模では、「大学卒(文科系)」を除き、いずれも6割以上
となっており、中小企業での人材確保が厳しい状況にある。
こうした情勢を反映して、東京商工会議所(小林健会頭)が
3月17日に発表した「2025年新卒者の採用・選考活動動向に関する調査」
結果によると、2025年新卒者の採用計画人数に対する昨年12月末時点での充足率について、
計画以上の内定者数を確保している企業の割合は13.4%と1割台にとどまっている。
充足率が50%未満の企業の割合は、40.3%を占め、また、
実質的な内定者がいない企業も14.6%となっている。
このため、2025年新卒者の採用環境(採用市場)について、
「とても厳しい採用環境である(採用がとても困難)」
とする企業が71.9%にも達し、
「多少厳しい採用環境である(採用が多少困難)」(24.5%)を合わせると、
採用環境が厳しいとする企業の割合が9割台に達している。
■厚生労働省の2025年度予算、三位一体の労働市場改革の推進などに重点
2025年度政府予算が3月31日に成立した(歳出総額は115兆1,978億円うち
一般歳出は68兆1,071億円)。
労働政策関連では、持続的・構造的な賃上げに向けた三位一体の労働市場改革の推進などが重点事項となっている。
厚生労働省予算の一般会計は前年度比で4,875億円(1.4%)増となった。
一方、労働保険特別会計は3兆3,158億円で同746億円(2.3%)増、
年金特別会計は72兆1,786億円で同5,298億円(0.7%)減、
子ども・子育て支援特別会計(育児休業等給付勘定)は1兆616億円で
同1,303億円(14.0%)増などとなっている。
同省の予算の重点事項は、
(1)全世代型社会保障の実現に向けた保健・医療・介護の構築
(2)持続的・構造的な賃上げに向けた三位一体の労働市場改革の推進と
多様な人材の活躍促進
(3)一人一人が生きがいや役割を持つ包摂的な社会の実現
――の3分野。
このうち、労働関連の施策が主に該当する
(2)の関連では、「最低賃金・賃金の引上げに向けた支援、非正規雇用労働者への支援等」
「リ・スキリング、ジョブ型人事(職務給)の導入、労働移動の円滑化」
「女性の活躍促進」などが政策の重点事項となる。
このうち新規・拡充した項目をみると、家計所得の増大を図るため、
最低賃金や賃金の引き上げに向けた中小企業・小規模事業者の生産性向上
の取り組みへの支援や、ステップアップをめざす非正規雇用労働者等に
対する支援などに総額328億円を投入。
個別施策としては中小企業・小規模事業者の生産性向上を支援する
「業務改善助成金」に15億円を計上。
事業場内最低賃金(事業場内で最も低い時間給)を引き上げ、
生産性の向上に資する設備投資を行った場合に、
その設備投資に要した金額の一部を助成する。
また、人材の確保や雇用管理改善を推進する事業主等に対して助成する
「人材確保等支援助成金」には計20億円を計上した。
このうち、賃金規定・人事評価制度などの導入・実施や、
従業員の直接的な作業負担を軽減する機器等の導入による雇用管理改善を行い、
離職率の低下に取り組んだ場合に助成する
「雇用管理制度・雇用環境整備助成コース」については、
他のコースと統合したうえで2025年4月から受付を再開した。
さらに、非正規雇用労働者の処遇改善にも注力。
ステップアップをめざす非正規雇用労働者等を支援するため、
「求職者支援制度」に261億円を充てる。
三位一体の労働市場改革に関する施策としては、
持続的・構造的な賃上げを図るため、労働者の学び・学び直しを支援することや、
個々の企業の実態に応じたジョブ型人事の導入、
成長分野等への労働移動の円滑化に総額1,593億円を投入する。
リ・スキリング支援については、新規事業として全世代を対象とした
学び直しを支援するため、雇用保険受給者を対象に、
自発的に教育訓練を受けるための休暇を取得した場合に、
賃金の一定の割合を支給する「教育訓練休暇給付金」を創設(78億円投入)する。
また雇用保険を受給できない求職者への融資制度を設立する。
フリーランス等で雇用保険を受給できない求職者の学び直しの支援として、
学び直しのための教育訓練に必要な費用について融資を受けられる制度を新設し、
8,100万円を充てる。
こうした学び直しの気運を高めていくために、
「キャリア形成・リスキング推進事業」に41億円を投入。
ハローワークのキャリアコンサルティング等の体制の強化や、
40代後半以降の中高年層を対象に、セカンドキャリアに向けたキャリアプランを支援する
「中高年齢層の経験交流・キャリアプラン塾(仮称)」を新規事業として盛り込む。
人材開発助成金の助成率も見直す。学び直しを後押しする事業主への支援として、
職務に関連した専門的な知識および技能を取得させるための職業訓練等を実施した
事業主にその費用の一部を助成する「人材開発支援助成金」に545億円を計上する。
■接近する連合と石破政権――政労会見が16年ぶりに開催
政府と労働界の首脳が直接対話する場である政労会見が4月14日、
総理官邸で開催された。
2009年6月に麻生政権で開催されて以降、16年ぶりとなる。
連合は首相と直接、意見交換することができる政労会見の開催をこの間、
要請してきたが、連合が支援してきた民主党政権以降は、実現が見送られてきた。
一方、芳野友子連合会長は3月9日に都内で開催された自民党大会に連合会長として、
20年ぶりに出席して来賓あいさつするなど、
自民党との距離を縮めている。
連合は、政策・制度要求の実現に向けて自民党を含む主要政党への要請活動を
継続的に実施していることから、自民党大会への招待に応じたという。
さらに石破首相は4月26日に東京・代々木公園で開かれた
第96回メーデー中央大会に現職首相として3年連続で出席。
政府を代表したあいさつの中で、
「『賃上げこそが成長戦略の要』との認識の下、物価上昇に負けない賃上げを必ず実現する」
と述べ、連合に協力を求めた。
16年ぶりの政労会見では、2025春季生活闘争における賃上げの状況のほか、
持続的な賃上げの環境整備、地域活性化、女性活躍推進などについて意見交換した。
冒頭のあいさつで芳野連合会長は、
中小企業での交渉が本格化している春季生活闘争の状況について、
大手の交渉を受け、33年ぶりの高水準の賃上げが実現している状況を紹介。
また、米トランプ政権による関税政策をめぐる動向に触れ、
労働者は経済の先行きに不安を感じていることから、
「賃上げ機運に水を差さすことにならぬよう政府として最大限の善処」を求めた。
これを受け、石破総理は挨拶で、
中小にも波及しつつある高水準の賃上げを全国津々浦々に波及させるために、
これまで強化してきた政策に変更はないとし、
「適切な価格転嫁の推進、生産性の向上、事業承継やM&Aの後押しなど、
あらゆる施策を総動員する」と強調。
関税の引き上げによって、中小企業の関係者にしわ寄せが行くことがないように、
連合と認識を共有しながら、
現場からの意見聴取に努めるなど、連合との連携強化に前向きな姿勢を示している。(荻野 登)
★☆★編集後記★☆★
ゴールデンウィーク(GW)です。最長で11日です。
JTBのGWにおけるアンケート調査では、約8割が旅行に
「行かない、たぶん行かない」との回答でした。
その理由(複数回答)は、
「混雑するから」49.5%、
「旅行費用が高いから」34.6%
「家計に余裕がないから」25.9%
今年の連休日は3日から6日の4日のみ、その上、物価高、宿泊費の高騰などの
影響で前年より減少の見込みです。
関西万博が開催され、また各地の観光地が混雑しています。
気分転換の旅行が、逆に混雑で疲れるより自宅でゆっくり派もいると思います。
トランプ関税で世界が揺れ、各企業への影響が不透明です。
結論が出るまでに時間を要するようです。
今夏も「また猛暑」予報です。
春の段階から、水分補給などの熱中症対策が必要とのことです。
皆様も熱中症対策を始めましょう。 (白石)
==============================================
★----------------------------------------------------------
発行者 社会保険労務士法人雇用システム研究所
代表社員 白石多賀子 東京都新宿区神楽坂2-13末よしビル4階
アドレス:info@koyousystem.jp
----------------------------------------------------------★
今月のメールマガジン第277号はいかがだったでしょうか。
お楽しみいただければ幸いです。
今後もさらに内容を充実していきたいと思います。
ご感想は info@koyousystem.jp にお願いします。
「こんな記事が読みたい!」というリクエストも、遠慮なくどうぞ。
次回の配信は6月初旬頃情報を送らせて頂きます。
e-mail: info@koyousystem.jp
[過去のメルマガ随時更新]⇒ http://www.koyousystem.jp
==============================================
メールマガジンの配信が不要な方は、お手数ですが、
こちらhttp://www.koyousystem.jp/mail_magazine.html から
配信停止を行って下さい。